01/03/2022

ロシアのウクライナ侵攻が、新たに航空産業に及ぼす影響

Russia’s invasion of Ukraine sets off devastating new impacts for aviation

この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、英語版記事の補助的なものであるため、英語版が(正)となります旨、ご了承ください。

先週のロシアによるウクライナ侵攻と激化は、世界中から制裁措置の渦を引き起こしている。その多くは、航空産業にとって壊滅的な重要性を持つ。これらの制裁の多くは短期的に取り消される可能性は低く、今後数週間、おそらくそれ以上、航空業界に大きな影響を与え続けると思われる。

これらの影響がどのくらい続くのか、この段階で推定することは困難であり、世界の航空産業への影響は明らかにウクライナで起こっている人道悲劇の二次的なものである。しかしながら、情報に基づいた意思決定に利用いただくため、Ishkaは商用航空産業の最も直接的な帰結をいくつか以下にリポートする。

ロシア企業にリースされている航空機

今週初めに取り上げたように、ロシア国外のリース会社が、ロシア航空会社に対してさらされているリスク度合いは重要である。ロシアでは780機を超える民間航空機がオペレーティングリースを利用しており、弊社の理解では、そのうち300機近くが西側の主要な6社のリース会社によって管理されている。これらの西側のリース会社所有航空機の多くはは、2月26日と27日に導入されたロシアでの航空機リース、保険、修理、保守、販売または移転を禁止するEU制裁をうけて、それぞれの所有者に返却する必要がある。リース会社は、2月26日以前に締結された契約に基づいて、2022年3月28日までに航空機を引き上げなければならない。

3社の主要な航空機リース会社であるエアキャップ、BOCアビエーション、エアキャッスルは、ロシアの航空会社に対してオペレーティングリース活動を停止すると発表。2021年末時点でロシアの航空会社にリースされている航空機材は、エアキャップは正味簿価ベースで約5%にあたり、BOCアビエーションの所有機は18機(ロシア拠点航空機の4.5%相当)で、管理している機材を加味するとさらに増える。2021年11月30日の時点で、エアキャッスルがロシア航空会社へリースする機材は正味簿価ベースで約6%。

さらに4番手の貸し手であるAvolonは、2月28日時点で通信社TASSとCh-aviationの報告によると、737-800がイスタンブールに駐機されている間に機材のコントールができ引き上げに成功したと伝えられている。

Krollボンドレーティングエージェンシー(KBRA)が作成した航空機ABSに関するリストによれば、ロシア航空会社へリースされている機材がポートフォリオ価値の10%を超える取引は14件あり、そのうち21%となる3件はカーライルアビエーションのAASET2019-1とCastlelake Aircraft Structured Trust 2021-1 と2017-1Rであった。

ロシアの報道機関TASSは、2月28日に、外国籍のリース会社がアエロフロートLCC子会社のポぺダから3機のB737-800をすでに回収したと報告している。1機の航空機はイスタンブールで回収された - これはAvolonが所有するVQ-BTC。

他の報告によると、メキシコシティでは、ノードウィンドのB777-300ER、ジュネーブではアエロフロートのA321、アムステルダムではアエロフロートのA320が保管(勾留)されているか、もしくはモスクワに戻ることができていない。

Ishkaの見解

EU以外のリース会社がロシアへの航空機リースを継続することは技術的には可能と思われるが、航空機リース業界の多く(中国の事業体含む)が、資産の管理をアイルランドの子会社に依存しているため、今回の制裁措置は多くのリース会社に影響を与える可能性がある。リース会社は制裁措置の可能性に備えるため数週間を費やし、これまでロシア全体の航空会社ではなく、国営航空会社のみが対象になると期待されていた。例えば、2月17日の決算発表でエアリースコーポレーション(ALC)は、ロシアの航空会社はいずれも国営航空会社ではないことを今回の制裁緩和要因として述べていた。

航空機の引き上げを検討するならば、イスタンブールのようなロシア管轄外での機敏な動きは、より単純な戦術の1つになる可能性がある。しかし、多くのロシア国籍外所有機でロシアの航空会社に使用されているものは一刻も早くロシアから離れる必要があるが、多くは足止めされている。

何百もの航空機が突然オペレーターなしで、簡単にアクセスできない管轄区域に駐機となっている。そのため、航空業界は現在、大きな問題に取り組まければならない。リース会社が航空機に最終的にアクセスできる場合、彼らが最終決定を下す:転貸するか、もしくは(制裁が解除された場合)元のオペレーターにリースバックすることを期待しロシアに保管しておくか。その間、ロシアの航空会社が一部のリース契約で購入を行使できるという憶測もあったが、これは収益がひっ迫している航空会社にとって実行不可能であることに加え、EU制裁のもと禁止されている。

機体の引き上げを緩和する因子は二つあり、ロシアにある外国籍企業が所有する機体は一般にバミューダのような第三の法的管轄区域に登録されていること、またロシアがケープタウン条約の署名国であるということである。しかし、引き続きロシアの西側両国境側で緊張と制裁が依然として悪化しており、航空機体の中長期的な状態から再販に至るまで、リース会社はより大きな懸念事項を抱えている。レッシ―とレッサー間での摩擦の程度にもよるが、型通りに機体がリース返却されることから、リース機の共食いまで、幅広い工程で支えらるため、すべて潜在的な結末であると考えることができる。

 

ロシアにある西側OEMによる製造機体

ロシア商用航空機の約4分の3が、EU、米国、またはカナダで製造された機体である。ロシアの航空会社が所有する西側OEM製造の航空機、ロシアのリース会社あるいはEUのリース制裁の影響を受けないリース会社も、ヨーロッパのMROサービスおよびEUと米国にリンクされたスペアパーツ利用の影響を受ける、あるいは制裁の対象となる。

航空機スペアパーツに対するEUの制約が最も注目されているが、法律事務所White&Caseは、2月24日にアメリカ合衆国商務省産業安全保障局によって導入された米国の輸出制限で以下のように述べている。必要な航空機部品(ECCN9A991.dに基づくパーツとコンポーネント)を入手するロシアの能力には限界がある。より多くの制裁が、米国または他の管轄区域で製造された航空機に時期に適用される可能性があるだろう。

Ishkaの見解

ロシアの航空会社は、おそらくこの段階で少なとも数週間は典型的なAOG(aircraft on ground)イベントをカバーできるだけの在庫を抱えていると思われる。少なくとも数週間はカバーされるはずだ。しかし、今の状態が継続した場合や、その他の保守規定によっては、ウェスタン製造の航空機は短期間しか運航し続けることができない場合もあると思われる。

SWIFT および 支払いの制約

世界有数の銀行間決済システムであるSWIFTからロシアの特定の銀行を除外することは、 ロシアから他の国への決済システムを切り離す。リース会社はこうなることを予想し準備をしていた。つまり、EUにリンクされたすべての航空機リース活動が制裁によって完全に制限される。

早くも2月中旬、Avolonは、“20機未満”のロシアにある航空機に関連する支払いについてSWITの代替案を検討していると報告している。CEOのDomhnal Slattery氏はロイターに「リース料支払いの観点から、どうやってそれらを回避できるかに焦点を合わせている」と語った。

 Ishkaの見解: 

Avolon以外の貸し手も同様の準備をしている可能性があり、SWIFTの制約は、航空機を引き上げるという圧倒的な作業の次に、2番目の優先事項となる可能性が高いが、延滞したリース料の支払いを妨げられる可能性もある。この段階では、EUにリンクしない他のリース会社がロシアの航空会社にリースを継続する(あるいは継続できる)かどうかは不明である。もしあれば、SWIFTの支払い封鎖は解決しなければならない障害の1つとなるであろう。

 

ロシア通貨ルーブル急落とロシア経済への影響

 欧米の制裁とウクライナ侵攻による深刻な影響で、ロシアルーブルは押し下げられ、月曜日だけでその価値は4分の1となった。EUはまた、ロシア中央銀行もしくはその代理として行動する法人もしくは団体との取引を禁止しており、銀行の外貨準備へのアクセスを事実上阻止し、通貨を下支えする能力を制限している。

ロシアの航空会社にとって、ルーブル安の影響は深刻である。ロシア最大の航空会社である国営アエロフロートは、通貨安などの制裁措置に備えてストレステストを受けたと報じられているが、Bell誌が引用した政府関係者の報告によると、これらのテスト結果と現実は異なる可能性がある。「公には誰もがポジティブな報告をするが、個人的な会話では悲劇的だ」と関係者の1人は伝えている。

Ishka見解:

ロシアの美辞麗句にも関わらず、通貨下落と経済への深刻な影響は、ロシアの航空会社と一般のロシア人の財政状態にも悪影響を及ぼす。ロシアの人々が海外への空の旅に再びアクセスできるようになったとしても、ルーブルの価値が回復しない限り、より高いドルの固定費を反映するためにチケット価格を上げる必要がある。これは多くのロシアの人々にとって空の旅は手の届かないものになる可能性がある。

 

空域閉鎖

EU,英国、カナダ、および特定のスカンジナビア諸国は、3月1日の時点で、ロシア機材に対し空域を閉ざしている。このリポートを発行する間にも、EUはロシアの空域禁止を拡大することについて米国と議論している。一方、米国の共和党議員であるカルロス・ギメネス下院議員は、禁止する法律を提出予定である。ロシアが運航する航空会社と米国の空域を飛行するプライベートジェットが対象となる予定。

これまでで最も広範囲にわたる今回のEU制裁措置は、緊急着率を除いて、ロシアの航空会社またはロシア事業体によって管理されている航空会社による離発着、もしくは上空飛行を禁止。これらの国々を発着する航空会社だけでなく、それら以外の多くの航空会社までもが、ロシアへのフライトをキャンセルしている。

対抗措置で、制裁国に拠点を置く航空会社に対しロシア空域を封鎖したことにより、ヨーロッパとカナダから北東アジアへのフライトが相互にブロックされ、より長い北または南周りのルート使用に制限されている。北東アジアに対し大規模な路線ネットワークを持つ2社の欧州航空会社、KLMとフィンエアーは、代替え案を検討しており、その間、日本、韓国、中国へのフライトを3月6日までキャンセルしたと述べた。航空会社はまた、2022年第一四半期および2022年下半期の運航環境に関連するガイダンスを撤回している。

Ishkaの見解

シリア、リビア、ウクライナ東部、イエメンなど、戦争や紛争に関連して、近年、世界の空域の一部が封鎖されている。しかし、冷戦以来、この規模の空域封鎖は、世界でも見ることはなかった。ロシアは航空会社から数億ドルの飛行権を得ており、航空会社はこられの費用負担がなくなるが、ロシアを一周したり、中東などの中間ハブを経由して輸送経路を再構築する必要がある。またそれにはコストがかかり、燃料も多く消費される。ロシア以外の航空会社で影響を大きく受けるのは、間違いなく欧州の航空会社であるが、中東のハブアンドスポーク航空会社は、コネクティング輸送からの増加を得られる可能性もある。しかし、ロシアの上空飛行が制限されれば、ME3航空会社も米国のフライトへの混乱がもたらされる可能性がある。

 

燃油価格

ウクライナ紛争により、この数日間で石油価格が1バレル100ドルをはるかに上回り、ゴールドマンサックスのアナリストによれば、欧米政府がロシアのエネルギー輸出に制裁を課す場合、価格は1バレル120ドルまで上がる可能性があると述べている。国際エネルギー機関(IAE)は3月1日、加盟国がこの不足を防ぐため緊急備蓄から6000万バレルの石油を放出することに合意したと述べた。

石油価格の上昇はジェット燃料に転嫁され価格の上昇が起こりえる。IATAジェット燃料価格モニターによると、過去1年間で約59%の価格上昇が観察されている。

Ishkaの見解

燃油価格の上昇は、現在の状況からもっとも直接影響を受けている1つであるが、他の産油国が生産量を増やせば、いち早く逆転する可能性もある。その間、世界中の多くの航空会社が、パンデミック後の収益回復に取り組んでいるが、より高い運用コストを経験することになるであろう。

 

OEM サプライチェーン

欧米各国のOEMは、チタン供給に関して紛争の影響を受ける可能性があり、サプライチェーンコンサルティング会社AeroDynamicアドバイザリーは、商用航空の生産が停止する可能性さえあるとLeeham News誌に語っている。ロシアのVSMPOは、世界最大のチタン 海綿生産者である。VSMPOに精通しているトレーダーがArgusメディアに個別に語ったところによれば、制裁はまだ金属輸出に影響を与えていないが、「(危機が)悪化した場合、ロシアが金属に課された制裁の対抗措置が、個人に向けられ、それが問題となる可能性があると思う」とコメント。

「興味深い問題は、エアバスとボーイングがVSMPOに依存していることだ。現在の情勢を理由に、すでに競合他社に接近していると我々は認識している」と市場関係者はArgusに語っている。エアバスは、また、地政学的リスクがチタン調達政策ポリシーにまで及んでいるとも語った。「したがって、私たちは短期・中期的な問題として保護しなければならない。このエクスポージャーは、ロシアのチタンサプライヤーVSMPOに対してエアバスの直接調達と(Tier1サプライヤーを通じた)関節調達の混合です」とエアバスはコメントしている。

これとは別に、サフランはロイター通信に対し、年初から金属の在庫を増やし、数カ月間は十分なチタンの在庫量があると語っている。

Ishkaの見解:

現段階では、チタンの輸出はすぐには影響しないが、ロシアが金属の輸出制裁で対抗措置をとれば、その影響を受ける可能性はある。エアバスやボーイングを含むすべての欧米OEMのチタンのサプライチェーンは多様化している。これは、2014年のクリミアの併合時によって推進されたことである。ただし、OEMが他のサプライヤーを通じてチタンにアクセスできる場合でも、不足による価格の押上げが起こる可能性がある。チタンに加えて、OEMの生産に影響を与える可能性のある他のコンポーネントやアビオニクスの供給についてもロシアに依存している。生産率への影響は引き続き留まっており、名目上サービスが開始できる駐機中の何千もの航空機が、サービスへの復帰を加速してくれる可能性がある。

 

制裁によりロシアの銀行、リース会社、OEM停止

2月22日、米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、主要なロシア2行の金融機関に制裁措置を導入し、米国での業務を禁止、もしくは米国の金融システムを使用することと発表。これは、Corporation Bank for Development and Foreign Economic Affairs Vnesheconombank (VEB) 、およびPromsvyazbank Public Joint Stock Company (PSB)に対する措置。 VEB子会社の資産および権利には、航空機の貸し手であるVEBリーシングOJSCが含まれる。2月24日には、OFASは貸し手であるSberBank(ズベルバンク)の事業体を追加し、これにはSberリーシングが含まれる。ズベルバンクの株式は、この3週間で50%以上下落しており、ズベルバンクが所有するヨーロッパ資産の一部は崩壊のリスクにさらされていると報告されている。

英国はまた、VTB Bank, Rostec (United Aircraft Corporation, Russian Helicopters、航空部品メーカーのTechnodinamika、およびUnited Engine Corporationのホールディング会社)を含む6つのエンティティ、および以前合併したUnited Aircraft Corporationの資産凍結を発表。ロシアの航空機メーカーであるIlyushin、Irkut、Mikoyan、Sukhoi、Tupoley、およびYakovlevも含まれる。

Ishkaの見解:

ロシアのリース会社と航空機メーカーは、航空機の直接提供者として欧米での存在感は限られているが、業界のステークホルダーは、航空機の取引を含め、ロシアと取引する際の制約に注意する必要がある。

 

ベラルーシとウクライナ

世界最大の空の旅の市場の1つでもあり、管制空域でも最大であるロシアに多くの人は目を向けているが、制裁措置と旅行の安全対策に関しては、ベラルーシとウクライナへも影響を及ぼす。

ベラルーシの場合、米国は、ベラルーシ貨物運送業者(以前はTransAVIAexport Airlinesとして知られる)TAEAviaに対して制裁措置を導入したことがある。

ウクライナに拠点を置く一部の航空機は、ウクライナの航空会社もしくは外国籍の航空会社のいずれかであるが、ここ数週間で国外に持ち出されている。国営航空会社であるウクライナ国際航空(UIA)は、保険会社から保険を終了するという公式の通知を2月中旬に受け取っている。UIAは、当時保管するために5機のB737-800をスペインへ送った。

その後、2月14日、ウクライナは、紛争の脅威にも関わらず航空輸送を活発に保つため、5億9000万ドルの航空機保険基金を創設。この基金の創設が航空機の保有者に運航を継続するよう説得するのに十分であったかは不明であるが、ウィズエアーは2月28日に民間空域の閉鎖後、A320-200の4機が国内に閉じ込められたとCh-Aviationは確認している。

Ishkaの見解

現時点では、いずれかの国で立ち往生している航空機があるが、それらの機材が制裁や制約の影響をうけているかは不明。しかし、ベラルーシとウクライナの航空機所有者は、対応の準備に時間がかかったはずだ。ベラルーシのフラッグキャリアであるBelaviaも、ミンスクが移民操作に関しEU制裁の対象になった際、ここ数カ月で複数の航空機を貸し手に返還している。これにより、ロシアのウクライナ侵攻に先立ち、Belaviaの機材数は減少していた。

 

Ishkaの見解

航空ファイナンスの利害関係者は、今すぐ自分自身が持っているすべての権利を確認している状態にある。B737Maxの飛行停止、新型コロナパンデミック、そして今やロシアのウクライナ侵攻は、我々の記憶の中でこの産業に影響を与える最大の“ブラックスワン”イベントの一部である。これらすべてがこの3年以内に起こっている。ロシア侵攻による中長期的な経済への影響は、まだ推定できないが、2020年の新型コロナパンデミックの発生と比較すると、数千機ではなく、数百機相当の機材を考慮する必要があるだろう。これらの経済的影響が、どれだけ航空産業や世界経済に害を及ぼすのか理解する価値はあるが、しかしながら、ウクライナで起こっている人道悲劇とは、かけ離れて到底比較することはできない。制裁の緩和では、最良の結果をはかることはできないかもしれないが、暴力とロシアの軍事侵攻を即座に終わらせることは可能かもしれない。

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